鞭の打ち方によって痛みの強さや傷跡の濃さが変えられるなんて、私たちの間では常識だけれど、SMに触れたばかりの人たちは知らなかったりするのかしら。痛い鞭も、気持ちの良い鞭もどちらも好きだけれど、鞭はそれ以上に君の全てを剥奪してしまう特別な道具という感じがする。

君はとても繊細でいつも人からどう見られるかを気にしてしまう。緊張からかえって口数が増える。マゾになる恥ずかしさから逃れようとする君を静かに観察する。話し続ける君の奥底を見透かすようなこの時間がとても好きだ。余計に恥ずかしく落ち着かない気持ちになるでしょう？

私の掌で踊らされてしまっている君。なんだか子供のころに飼っていた小動物を思い出す。私の手の上で、トクトクと拍動する小さな熱い命を持った塊。君もそんな可愛い生き物のようね。

落ち着かない君を静かにさせる。近づいて、身体に触れ、首輪を取り付けて、枷をはめる。静かに、静かに。抵抗しようとする気持ちも、静かに素早く抑え込む。全頭マスクをかぶせて、両手を頭の後ろに持っていく。静かにしてね。口枷を押し込んで、再び君から距離を取る。

じっとして。私の眼を見て。

ゆっくりと、鞭の先で君の深い部分を探っていく。
君の身体が打たれることを受け入れてしまうように少しずつ導いていく。
かと思えば、君に意地悪をしてフェイントをかける。

思いがけない苦痛に呻く君。崩れ落ちそうになっているけれど、駄目よ。
苦しんでいる姿にも、必死に耐える姿にも、興奮させられてしまう。

とても苦しいでしょう？辛いよね？
でも、君が考えてもいいのはそんなことじゃない。
私の眼を見て。もう一度しっかり立ちなさい。

気が付けば何度も何度も鞭を巻き付けられて、うっすらと痕が付いている。
私と君の時間の証。君に近づいてその痕に触れるとき、またゾクゾクとした快楽に襲われる。

痕が欲しいと言ったよね？
でも、それってもっと苦しくて辛いわよ？
それでも良いの・・・？

君が抗えないことなんて分かっている。でも、敢えてそれを聞くの。
お前はもっと私のことを悦ばせてくれるでしょう？

痛みの中で、打たれることだけに集中する君。
君の中の余計なものが剥がれ落ちて、純粋なモノになるとき、私も君のことしか見えなくなる。
そんな真っ白な時間について、あまり多くは語れない。
経験した者だけがわかる特別なこと。そしてその時間を終えたなら、身体に美しい痕が残されているだけ。



一つの打ち方を激しいと感じるかどうかには個人差がある。たくさん受けられたり、少しの痛みでギブアップしたり、同じ人間でもその時々によって色々だ。傷跡を残すことが偉いのでもない。打つ者と打たれるものが真剣に向き合って一つになることや、内側の深い部分に触れられることのほうがよほど大切だと思う。身体についた痕は好きだから、やっぱり見ているとドキドキしてしまうのだけれど。

鞭の与えてくれる特別な繋がりが好きだ。互いの興奮で高まっていく瞬間も。苦痛を経てでしか得られない解放の時間ってSMの世界にしかないものだと思う。暖かく、得難しく、愛おしい。


三津香 Mitsuka