さて『春琴抄』の話の続きです。

『春琴抄』のヒロイン、春琴は美貌の令嬢で三味線の名手として名高かったが、小さな頃に失明した娘を両親は甘やかして育て、わがまま放題に育った。その上、大変に気の強い負けず嫌いで、そして底意地まで悪かったのよね。そんな春琴に憧れる佐助は少し年上の奉公人で、目の見えない春琴の手を引いて、三味線の稽古から厠にまで連れて行くという役目を仰せつかっていた。春琴は元々わがままだけれど、特に佐助に対して横暴になるの。でも佐助は「それを苦役と感ぜずむしろ喜んだのでもあった彼女の特別な意地悪さを甘えられているように取り、一種の恩寵の如くに解した」
つまり、佐助の方でも春琴に意地悪をされてはそれを有難いと思っていたというわけ。
こういうの好きな人、ここにもいるんじゃない?笑

令嬢と使用人という主従関係だった二人は、三味線の稽古を通して師弟の契りも結ぶのだけれど、ある夜、大事件が起きる。眠っていた佐助がうめき声に目を覚まして隣の春琴の部屋を覗くと、見知らぬ男が鉄瓶を投げ捨てて逃げていくところだった。何者かが春琴の顔に熱湯をかけ、大やけどを負わせたのだ。その傷は凄まじく乾ききるまでに二か月以上を要し、春琴の美貌は損なわれてしまった。これにはさすがの春琴もくじけてしまい、縮緬の頭巾で顔を隠し人目を避けるようになる。そんなある日のこと、医者以外には傷を見せようとしなかった春琴が病室にやってきた佐助に話しかける。

佐助お前はこの顔を見たであろうのと突如とつじょ春琴が思い余ったように尋ねたいえいえ見てはならぬと仰っしゃってでござりますものを何でお言葉にたがいましょうぞと答えるともう近いうちに傷がえたら繃帯を除けねばならぬしお医者様も来ぬようになる、そうしたら余人よじんはともかくお前にだけはこの顔を見られねばならぬと勝気な春琴も意地が欲求不満くじけたかついぞないことになみだを流し繃帯の上からしきりに両眼をぬぐえば佐助も突然あんぜんとして云うべき言葉なく共に嗚咽おえつするばかりであったがようござります、必ずお顔を見ぬように致しますご安心なさりませと何事か期する所があるように云った。

このあと、何が起こったか。それは自分で読んでみてほしいな。
あなただったらご主人さまにこんなことを言われたらどうする?
勘のいい子なら、佐助が何をしたかわかるかもね。

『春琴抄』は、春琴も佐助も不完全で大きく偏った人間だというところがポイントだと思う。佐助にとっての春琴は完全な存在のようだけれど、佐助だって生身の春琴はただの人間に過ぎないということに気付いていたよね。佐助は生身の春琴の向こうに、自分だけの「ご主人さま」を見出している。(物語的には「お師匠様」だけど。笑)

S女さんの中にはこの物語が嫌いだという人もいて、それはこういう佐助の春琴に対する盲目的な崇拝がエゴマゾっぽいと感じるからなんだと思う。確かにその意見にも一理ある。佐助が見ていたのは、目の前の肉体を伴った春琴そのものではなく、もっと観念的なもの、いわば春琴のイデアだったから。生身の春琴は所詮、彼が理想の「ご主人さま」を得るための媒介に過ぎない。でも私は、佐助の献身と女性上位の世界観がこういうエゴを十二分に贖っていると思う。春琴も佐助も全く立派な人間ではないけれど、そんな二人が二人にしかできない方法で永遠に到達してしまう。なんて美しくて夢のある物語なんだろう。

どこへ行くにもお供をさせて世話を焼かせたり、寒いからって布団の中で足を温めさせたり、理不尽な暴力をふるったり…。そういうのも確かにSMっぽいし、それはそれで楽しそう。というか普通に楽しい(笑) でも、月並みな言葉かもしれないけど、この二人の関係性こそがSM的だなって私は思う。

春琴の言葉を受けての佐助の行動を聞いて、春琴の声が悦びに震えたのは、彼女自身どこかで自分の欲深さに気付いていたからなのではないかな。醜い顔を見られたくないという気持ちも、もちろんあったと思うけれど、春琴自身も自分の欲望を認めてもらえたのだと感じたのだと思う。

自ら差し出させることで差し出されたもの以上に大きなものを受け取る。すべてわかったうえでやらせているのだから、ほとんど奪い取ると言った方が正しいか。どこまでも自分勝手でひどい人。けれど、その欲の深さ、業の深さ、そして奪い取ったあとの、天にも昇るほどの心地を、私も既に知ってしまった。

これを読んでいるあなたはどうかな。
奪われる悦びを経験したことがある?
昔の私みたいに恐ろしくて逃げ出してしまいたい気持ち?
それとも…?


三津香 Mistress Mitsuka
 
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大阪難波M専科【Ishtar-イシュタル-】
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